最高裁判所第二小法廷 昭和26年(あ)2340号 判決 1952年3月28日
本籍
石川県七尾市米町五〇番地
住居
不定
無職
岡崎勝次
大正一〇年四月一九日生
右の者に対する詐欺被告事件について、昭和二六年四月二〇日大阪高等裁判所の言渡した判決に対し、被告人から上告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
当審における未決勾留日数中九〇日を本刑に算入する。
当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
弁護人田辺恒之の上告趣意第一点について。
所論は、原審において本件につき弁護人を選任したのは控訴趣意書提出期限を経過した後であつたので、弁護人は控訴趣意書を提出することができず公判期日には被告人提出の趣意書に基づいて陳述したに過ぎない、かくの如きは弁護権の行使を不当に制限したものであり、憲法三七条三項の趣旨に反するというのであるが、憲法三七条三項前段所定の弁護人を依頼する権利は被告人が自ら行使すべきものであるから、弁護人を選任することは原則として被告人の自由意思に委せられているのであり、また後段の規定は被告人が自ら弁護人を依頼することができない場合には、国でこれを附する旨を被告人に告知すべき義務を裁判所に負はせているものではないから、弁護人の選任を請求する者に対して弁護人を附すれば足るのである(昭和二四年(れ)第二三八号同年一一月三〇日並びに昭和二四年(れ)第六八七号同年一一月二日大法廷判決参照)。
本件記録によると、被告人は原審裁判所から昭和二六年一月二六日に控訴趣意書を提出すべき最終日を同年二月二二日と指定した通知を受取り、右期間内に自ら作成した控訴趣意書を提出しており、国選弁護人の選出を裁判所に請求した形跡はないのである。そして原審は本件が必要的弁護事件であるので、公判期日の三日前に弁護人を選任し、弁護人は公判期日に出頭して異議なく被告人提出の控訴趣意書に基ずき弁論したものであり、これを目して不当に弁護権を制限したということは当らない。よつて原審の手続には未だもつて所論のような憲法違反の廉ありとすることはできない。論旨は理由がない。
同第二点について。
所論は法令違反と量刑不当の主張であつて、刑訴四〇五条所定の上告理由に該当しない。
被告人の上告趣意について。
論旨は結局量刑不当の主張であり、刑訴四〇五条所定の上告理由に該当しない。
なお記録を精査しても本件につき刑訴四一一条を適用すべきかどは認められない。
よつて刑訴四一四条、三九六条、一八一条刑法二一条に従い主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員一致の意見である。
検察官 岡琢郎関与
(裁判長裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)